名古屋高等裁判所 昭和36年(う)207号 判決 1961年7月01日
控訴人 被告人 米村徳蔵
弁護人 安藤巌
検察官 荒井健吉
主文
本件控訴を棄却する。
当審における訴訟費用は、被告人の負担とする。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人安藤巌提出の控訴趣意書に記載するとおりであるから、ここに、これを引用する。
控訴趣意第一点事実誤認の主張について
所論は、原判示事故発生当時、被告人は強度の酩酊状態に在り、被害者が後部荷台に同乗していることを知らなかつたものであるから、その死傷の結果につき被告人に過失責任を負わせるべきでないというが、この点は、原判決も説示しているとおり原判示の如き強い酩酊に陥りながら、交通上事故発生の危険の大きい街路上を高速度で自動車を疾走させる以上、原判示の如き衝突事故の発生した場合、他人の死、傷を惹起せしめる危険のあることは、自動車運転者としては当然認識し得べかりしところであるから、被告人において、たとい、原判示自動車後部荷台に原判示被害者の乗車している事実を認識していなかつたとしても、被告人が原判示自己の運転する自動車の衝突により原判示死、傷の結果を生ぜしめた以上、被告人としては、同人らに対する原判示重過失致死、傷の罪責を免れないことは、当然である。しかも、被告人が、原判示被害者らが、被告人の運転する自動車後部荷台に同乗していた事実を認識していたことは、原判決引用の被告人の司法警察員に対する供述調書によるも明認できるところであり、現に、当夜、原判示料理店まで被告人及び右被害者らと同行し、飲酒後被告人と共に同料理店を出た伊東賢一が助手席に同乗していたことは、被告人も明らかに認識していたこと(原審公判調書中被告人の供述記載)及び、被告人が自動車を運転して帰路についた午後十二時近くの深夜にいたれば、原判示料理店の所在場所から被告人並びに被害者らが居住する守山市までは、電車、バス等の公共の交通機関はなく、その往来を自動車に頼らなければならないことは、当裁判所に顕著な事実であり、被告人らとしても当然このことは承知していたはずで、右時刻に料理店を出た被告人としては、当然往路に同行した被害者らが、被告人と同行すべきことを認識していたものと認められることを併せ考えれば、被告人の前示司法警察員に対する供述調書は措信できるものというべきである。論旨は結局事実誤認を主張するもその内容は原判決の法令違反を主張するもので、その理由のないことは前に見たとおりであり、しかも、その法令違反の前提となる事実の誤認を争う点も採るを得ないことは、これ又前説示のとおりであつて、論旨は理由がない。
同第二点量刑不当の諭旨について
所論に鑑み、本件記録並びに原裁判所が取り調べたすべての証拠を検討してみるのに、被告人のの本件所為は、無資格で自動車を運転し、しかも多量に飲酒し酩酊の結果正常な運転をなし得ない状況に在つたのに拘らず、敢て該自動車を運転したばかりか、原判決の認定しているように、たとい時刻が午後十二時近くになつても、なお自動車の往来のかなり頻繁な原判示広小路通りを時速六〇粁という高速度で自動車を疾走させ、しかも前方の障害物に対する警戒、注視を怠つていた重大な過失により、原判示のように市電安全地帯標識に自車を激突させたもので、被告人の過失の態様はすぐれて重い非難に値するものというべきこと、しかも、その結果一人を殆んど即死させ、他の一人に頭部挫滅等の重傷を与えたもので、その結果の極めて深刻かつ重大であつたこと、その他本件記録に徴し窺知できる諸般の情状を勘案すれば、所論の被告人に有利な事情を参酌し、かつ、この種事犯に対する量刑一般との権衡を考慮に容れても、原判決の科刑が所論の如く重きに過ぎ不当なものであるとは、とうてい認められない。
よつて、刑訴法三九六条に則り本件控訴を棄却することとし、当審における訴訟費用(弁護人支給分)は、同法一八一条一項本文に従い、被告人の負担とする。
(裁判長判事 影山正雄 判事 谷口正孝 判事 中谷直久)